第3回日本DCD学会学術集会
長崎大学医学部記念講堂
『明日からできる不器用さのある子へのアプローチ』
4月13日-14日で開催された第3回日本DCD学会学術集会に参加して参りました。
当初の予想200名を大幅に超える500名以上の参加があり、多業種(作業療法士、心理士、保育士、ドクター、教員、保護者など)の参加がありました。
内容も実践から研究と多岐にわたり、非常に興味深いものでした。
メモを取りまくったものをやっとまとめたので、アップします♪♪
かなりの長文です。
DCD
=発達性協調運動障害(はったつせいきょうちょううんどうしょうがい、Developmental coordination disorder)とは、協調的運動がぎこちない、あるいは全身運動(粗大運動)や微細運動(手先の操作)がとても不器用な障害を言う。そのために、学習や日常生活に大きな影響を及ぼしている場合である。
大会長講演 「DCDと療育」岩永竜一郎先生(長崎大学生命医科学域)
(岩永先生は、この分野のスペシャリストで日本を代表する先生のお1人です。私は何度も岩永先生のご講演を伺っていますが専門用語もかみ砕いてお話してくださり非常にわかりやすく、臨床に講演会にとご多忙な先生です。)
・姿勢保持が難しいなど→発達性協調運動症(DCD) 神経発達症の1つ
・発達性協調運動症(DCD)は、注意欠如多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム症(ASD)の子どもに見られることもある『不器用さ』のことで、だれもが無意識にできるはずの簡単な作業がうまくできない脳の発達障害の一種だと考えられている。
例 ボールをキャッチできない、靴紐が結べない、階段の上り下りが苦手
字が汚い、枠に入らない
はさみ、スプーンやフォークが使えない
・国際的な診断基準
DCM-5(アメリカ 2013)
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アメリカ精神医学会が作っている、心の病気に関する診断基準のこと。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの頭文字をとった略称。世界的に広く用いられている。14年5月、DSM-5(第5版)の病名・用語翻訳ガイドライン初版が日本精神神経学会により公表され、一部の精神疾患概念において従来の「障害」との呼称に替わり「症(群)」の訳語を採用することが明らかとなった。 |
ICD-11(WHO 2018) |
世界保健機関(WHO)が作成する国際的に統一した基準で定められた死因及び疾病の分類。日本では、統計法に基づく統計基準として「疾病、傷害及び死因の統計分類」を告示し、公的統計(人口動態統計等)において適用している。また、医学的分類として医療機関における診療録の管理等においても広く活用されている。 |
・ハリーポッターの主役のダニエル・ラドクリフ
→一見器用そうに見えるが、靴紐が結べない。大人になってから「実は学校に行きたくなかった」と発言している。DCDを抱えていることを公表しており俳優を志すようになったのも、学校での生活が上手くいかず、学校以外で活躍出来る場所を見つけるためだったとのこと。
・不器用を具体的に言うと
→物を落とす、物にぶつかる、転倒、
姿勢が崩れる(真面目に座っているのにも関わらず崩れる、しつけの問題などではない)
・DCDとADHD併存→55.2%(=DAMP症候群、DAMPタイプ)
例えるなら
ONE PIECEのルフィー
「DAMP」タイプは、より二次障害が起きやすく注意が必要。
・DCDとASD併存→79%
・DCD単独では6%
(単独だと発見されにくく&受診まで繋がらず、ただの運動音痴などと言われている状況が多々ある)
・巧緻(こうち)運動スキルの明らかな低下が見られる
(巧緻運動=食事、更衣、筆記などの細かい指の動きが要求される運動)
・3歳児検診で協調運動に問題を抱えているとDCDを疑うべきで、より高いスクリーニングの指標となる
・眼球運動→正中線を超えての眼球運動が苦手
・DCDの子が「姿勢がいい」ということは・・・
DCD以外の人に例えるなら、24時間バレエしながら歩いているようなもので、非常に頑張って状態がひたすら続いているようなもの
→小道モコさん著書「あたし研究」内で「着ぐるみに入っているようなかんじ」と表現している
・DCD児
自己概念が低く、友人関係も苦手になりやすい
学校でのQOLが低下しやすい
・メモを取ることが苦手で、仕事・勉強の遂行能力に影響を与える
・DCDと他の疾患との併存は、症状・経過・転機に更なる影響を与える
・岩永先生はハローワークの相談事業もしている→相談者に「仕事を辞めた理由」を伺うと・・・
①対人関係
②作業が苦手(×精密さ×細やかさ)
③期限までに仕上げることが大変すぎる
・青年期以降の問題
DCDの若者→社会参加、QOL、生活満足度が低値
・DCD児・者→抑うつ傾向が見られやすい
失敗をごまかすために、おどけたり反発したりするパターンもある
素行の問題は43%に起こりえる
・協調運動の評価
定型発達児であれば手の動きがモニタリング出来るので、ボタンを見ずにはめられる
DCD児 →ボタンをはめることに困難さが出る
・ASD併存→実行機能に問題がある
例)「ユニクロなどファストファッション系に勤めたが色々な洋服のたたみ方があり、それに対応出来ずに仕事を辞めた。」
⇔ 和服なら同じたたみ方
・縄跳び
→他児より1ヶ月早く取り組み始め、予習を頑張る
みんなの前で失敗してその後特訓するのではダメ→より体育嫌い、自己肯定感低下を招くだけ。
・学校訪問をしても、DCDかなと岩永先生が感じる子のうち、半分以下しか医療と繋がっておらず、就学以前には14%しか繋がっていない→周囲の大人に気付かれない、発見の遅さも問題である
・療育を考える上で『ICFモデル』
・障害志向型と課題志向型
・DCDは、わがままではなく『ブレーキが効かない』
・体育の時間に皆の前で失敗
→飛び箱にわざとぶつかる、縄とび後にひっかかる・・・などとふざけたり、ごまかしたりして、自分で自分を守ることもある、自己肯定感低下の抑制を自らしている
・DCD児
姿勢が崩れ、よく注意される
定型発達児に例えるなら・・・メガネをかけている子に「メガネを外しなさい!なぜ見えないの?」と言っているのと同じである
・ジョブマッチング
環境を整えることが大事
×頑張らせる
×見よう見まね
~まとめ 子どもを取り巻く方にお伝えしていること~
・不器用は発達的特性であることを理解する
・苦手な運動は個別に教える
・運動は先に教え、予習の形をとる
・体育の授業内で初めてする運動ではなく、先に練習することが大切
・みんなの前で失敗をすると劣等感を抱き、自己肯定感低下を招く
・身体の動かし方を「右手→左手」などと言語化して教える
・やり方の手順を絵・写真などで示す
・視覚的・触覚的指標を用意し、見るポイントをはっきりと、ゴールを明確にする
教育講演Ⅰ「日常生活・教室で活きる不器用さのある子への支援」鴨下賢一先生(専門作業療法士)
(鴨下先生は長く勤められた静岡県立こども病院をご退職され、この春より福岡県福津市で株式会社 児童発達支援協会を設立され、リハビリ発達支援ルーム「かもん」など地域での支援を開始された。)
・DCD児、最初に鴨下先生が確認すること
→椅子やテーブルが合っているか→姿勢の確認
(もし長机などの共有の机であれば、椅子で調整する)
・食事に関する道具で、エジソン箸などを使われる方もいるがあれはダメ
→普通の箸を使えることをゴールにするのであれば、子ども用の長さの木の箸がベスト(竹は滑るので×)
・食べ方のチェック点
搔き込み食べになっていないか
噛まずに丸のみしていないか
口の中の食べ物が無くなってから次を入れているか
かじり取り食べが出来ているか
・飲み方のチェック点
ストローではなくコップから
基本的にスパウトは使わない
・良い姿勢
→足裏が床に付き、ひざ90度
机と身体は子どもの拳1つ分を空ける
深く腰掛ける、背もたれにもたれかからない
→最初は短時間で良いので、良い姿勢が出来ればOK
→「骨盤正中位中間位」での姿勢保持時間が長くなればOK
・噛まずに丸飲み=前歯でかじり取りが出来ない
→自分で一口量を学んでもらうことが大切
・箸と鉛筆の持ち方はリンクしている
〇動的3指握り
×静的3指握り
教育講演Ⅱ「協調をアセスメントする意義」中井昭雄先生(武庫川女子大学教育研究所)
(中井先生は、小児科専門医・指導医。公認心理士、臨床発達心理士。多くの著書があり、国際ガイドラインにおいて最もエビデンスのある評価尺度「M-ABC2」の日本語版の開発・標準化・刊行に向けた活動もされている。)
・ここで言う「協調」とは=脳機能を測っている、決して運動機能を測っているわけではない
「困難さ」のの可視化(見える化、視覚化)
適切な、客観的な診たて、診断
・ASD=対人関係以前の知覚・運動レベルに問題がある
・ニキ・リンコさん
(日本の女性作家、翻訳家。アスペルガー症候群・高機能自閉症を患っていることを公表)
“自閉症は身体障害”姿勢が悪く、椅子にもたれたり、ひじをついたり・・・
→二次的な結果として、対人関係の問題が起きている
・日本、男子より女子が手先が器用で発達のバランスが良い
→男女別の標準値が必要である
・DAMP→単独より広範囲で脳皮質成熟の遅れがある
=統合失調症(妄想・幻聴・幻覚)などの前駆症状と重なる
→共通の遺伝子により神経発達障害が起きている??
・「協調」という「脳機能」を評価するアセスメントツール
・「身体性」は社会コミュニケーション、実行機能と密接に関係している
体育、図工美術、技術家庭科、書字、文具・道具の使用、姿勢保持
→全ての教科や生活場面においてDCDという視点からの理解と支援が必要である
特別講演
「From practice to research and back again: Addressing the needs of DCD children」
Helen Polatajko先生(University of Toronto)
~DCDがある子どものニーズに取り組むために~
・DCDの子
→車に例えることが出来る
自動運転車は、ルート、速さ、赤信号で止まるなどプログラムされている
レーダー、GPS、カメラなど最も大切なのはコンピューター
→私たち身体もコンピューターを持っている=脳→コードが組み込まれている
コードをどう書いていくか=臨床家の支援
・DCD→×お手本を見るだけ
×練習から学ぶ
これはソフトウェアの問題で、動作と作業を可能にするためのコードを苦手としている
・自動運転車→止まらないのであればソフトウェアの問題なので、自動車修理工場に持ち込むのではなく、IT関係の会社に修理を依頼するのは当然である
・DCD
→1994年に8ヶ国から43名の専門家の招集し、名称と定義を議論した
・名称の変遷
微細脳損傷→LD&AD/HD→DCD
・問題があるのは、脳の中枢のプロセッサー
止まれないなら、ブレーキを取り換えればいい→でもダメ→DCD
→ソフトウェアの方の問題を考えよう
・動作・作業遂行のコードを創り出す
・日本の子、巧緻性がアメリカの子より良い
逆に、粗大運動はアメリカの子の方が良い
・日本の文化では、手の器用さを求められる
より時間をかけて学校でも取り組むウエイトが高い
~コードの神経科学~
・学習は神経の可塑性と同義
・神経の可塑的変化において、経験と訓練が決定的なのは明らかである
“神経細胞は共に発火し、互いに繋がっている”
・「練習」は完璧をもたらさない
試行錯誤学習Trialand Error Learning
知識≠コード
・DCDの子
=タスク特化型訓練
CO-OP(コアップ)
→クライアント中心に動作・作業遂行に焦点を当て、問題解決型のアプローチ
CO-OPの骨組み
GOAL-PLAN-DO―CHECK
・動的な動作・作業遂行の分析
→躁的・作業遂行の違い(低い)ではなく、観察し問題点を固定化する
①一度に取り組むことは一つ
②人それぞれの方略
③ガイド付きの発足
~まとめ~
DCD及び運動に関わる動作・作業の遂行は、学習(ソフトウェア/プログラミング)の問題である。そして、運動のコードは、認知的な方略の使用ガイド付きの発見により創り出すことが出来る
シンポジウム「明日からできる不器用さのある子へのアプローチ~それぞれの立場から~」
(笹森さんは、32歳の時に発達障害の診断を受け、息子3人もそれぞれに発達障害を持つ。当事者、保護者、支援者の視点から、発達障害の特性や理解や対応をわかりやすく解説するなど、全国で講演活動を行っている。)
・自尊心をなくしてばかりの学生時代だった
・先生方にはそこの理解・支援を頂きたかった
・不器用の中にも凸凹がある
・完璧主義すぎて、自分で自分の首を絞めていた
・子どもは先が長いので、焦らせない
過去を生かして、未来へ成長出来るようなご支援を
・自尊心が上がるような支援を
<赤星秀典先生>佐世保市赤崎小学校教諭、長崎県小学校体育研究部副部長
(学校体育におけるスポーツとDCDについて)
・学校の体育
2017年告示新学習指導要領解説
「障害の有無にかかわらす」といった障害児への配慮を促す言葉が多く見られる
2010年~「生涯にわたってスポーツを親しむことができる資質や能力を育てる」
1980年~2000年 「体力向上を目指す(企業戦士の育成)」
「スポーツとの多様な関わりを・・・」「する、見る、支える」
1998年学習指導要領
☆運動遊び
☆身体ほぐしの運動
→運動の二極化に対応=不器用な子への配慮をしましょうということ
・“楽しい”と思えるような、その子が今出来ることからスタートする
・運動の楽しさを伝える、運動嫌いにしないことが最も重要
・“生きてるって素晴らしい”と子どもが思える学校に!
<赤壁省吾先生>言語聴覚士/就労移行支援事業所ワークステーション未来
(不器用さと自己理解について)
・「ナビゲーションブック」
→ジョブマッチングを含めた自分で作るサポートブック=自分についての本
・「NPO法人 アスペエルデの会」この感覚どうしたらいいの?
→体育でのチーム競技は罪悪感を感じてしまう 例)リレー、長縄、バスケ・・・
・言葉の理解の処理に時間がかかる
・人前で自分のことを説明する難しさを感じている
・環境を今の自分を理想とする自分のギャップが大きくなりすぎないように整理することも大切
・おすすめ書籍
「あたし研究」小道モコさん
「自分のことの教え方」吉田友子
「十人十色なカエルの子」落合みどり
(OTからみた適応(器用)について)
・外に出ていく力+出してあげる力
無意識で自分の身体を動かせない 例)テレビを見ながらの着替え
・先生ご自身が楽器を弾くことが苦手→音色を楽しめば良いとポジティブに思えるようになった
・教師の声掛け×「わからないことがあったら言ってね」
子どもは自分がわからない所がわからない・・・
→見通しを持って「ここまで」出来てここから出来ていないと分析する支援が必要
・本人を真ん中におけるかどうか・・・共通認識と様々なアプローチ
一般演題(ポスター)一部
<不器用さの呈する学習障害児への作業療法士による学校コンサルテーション>
<眼球運動の主幹的疲労感が消失した発達性強調運動障害児の一症例>
<箸ってこんな風に持つんだ!!~知覚探索に着目して~>
~感想など~
濃い2日間でした!!
長崎で学会がある貴重な機会!!と思い、ハードスケジュールでしたが参加してほんと良かったです。
仕事にもプライベートにも生かせること多くのことを学ばせて頂きました。
私自身、運動は苦手で頑張って体育に取り組んでも鉄棒、飛び箱、縄跳び、ダンス・・・どの種目もダメで、クラスメイトはじめ中学校の体育の先生にバカにされたこともあり、立派な運動嫌いの大人になってしまいました。
病名をつけるなんて・・・
病名がつくなんて・・・
というお考えの方もいらっしゃるかと思います。
しかし、病名がつく程の「極度の不器用」さで、生きることに困難さを抱えている子・方がいらっしゃるのも事実です。
病名がつくことによりサポートを受けることが出来、生きやすくなり笑顔が増えればそれに越したことはないと考えています。
教育現場の先生方に、今現在でもまだまだ認知されていない病気のため、ただの怠けや運動音痴と思われ&言われ、二次障害を引き起こしている現状もあります。
まとめたものを、職場の先生方にも回覧して頂いているので、私の学びが少しでもお役に立てたらと思っております。
GW中に、今回の学会参加がより深い学びとなるよう紹介して頂いた本を読みまくります!!
演者の先生方は勿論のこと、学会のサポートをしてくださった多くの先生方、大変ありがとうございました!!
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